植物遺伝子保管実験施設の遺伝資源
キク属とその近縁属
植物遺伝子保管実験施設には、世界レベルで誇れる遺伝資源コレクションがあります。
ひとつはキク属およびその近縁属の遺伝資源です。キク属は主に東アジアで分化した植物群ですが、本施設では日本固有種に加え、中国等の海外が原産である多くのキク属植物のコレクションを有しています。
キク属の特徴のひとつは高次倍数性進化にあります。日本固有種には二倍体から十倍体までの種があることから、この進化が日本列島で起きたことがわかります。
皆さんが、普段、花屋で目にするキクは栽培ギクです。栽培ギクは日本の切り花生産の1/3を占める、産業上最も重要な種でですが、同質六倍体であり、自家不和合性であることから、遺伝的な解析が進んでいませんでした。私たちは二倍体野生ギク・キクタニギクの自家和合性突然変異体から作製された純系を、分子遺伝学的研究のためのモデル系統とし、染色体レベルの高精度全ゲノム塩基配列を決定しました(Nakano et al., Communications Biology, 2021)。
キク属の特徴は種間交雑が可能なことです。ゲノム情報とその性質も活用し、キク属野生種や栽培ギクが持つ重要遺伝子を明らかにしていきたいと考えています。
ソテツ類
ソテツ類は、その全てがワシントン条約により国際的な取引が制限される絶滅が心配される裸子植物です。雄株と雌株が存在し、種子植物の中でも数少ない精子を持つ植物であす。また、サンゴ根と呼ばれる根にはシアノバクテリアが共生するなど、極端な貧栄養条件にも適応しています。ソテツ類には3科10属が含まれるとされ、本施設ではこのうち、8属18種を保有しています。
突然変異体
生物の進化は突然変異の積み重ねでもあります。
近年では、生物の持つ様々な多様性の原因となる遺伝子が単離されてきていますが、その中には正常遺伝子が突然変異を起こしたものも多くあります。近年の分子遺伝学的研究の中で、突然変異体は遺伝子機能の解析に大変重要な役割を果たしています。
私たちは形態的あるいは生理的な変異形質をもつ様々な植物の突然変異体の収集とその解析も進めています。